『蜘蛛の瞳』ネタバレありの感想解説 ~復讐を終えた男に訪れた”虚無”~

こんにちは! ゆったです。

前回に引き続き、黒沢清監督による異色の姉妹作品『蛇の道』『蜘蛛の瞳』より、今回は『蜘蛛の瞳』を紹介していきたいと思います。

前作の『蛇の道』についての記事もありますので、こちらもぜひ読んでみてください。

前作である『蛇の道』では2人の男たちが復讐を果たす様子が描かれましたが、この『蜘蛛の瞳』では復讐を終えた男の”救い”と”絶望”が描かれています。

前作と脚本家が変わり、黒沢清本人がストーリーを描いているので、内容はだいぶ難しいものになっています。しかし、後半の衝撃的な展開や、独特なテンポで進むストーリーテリングは非常に考察しがいのあるものなので、皆さんにもぜひ鑑賞してもらって、この感覚を共有したいです!

それでは、”虚無”を描き切った珍作『蜘蛛の瞳』を早速紹介していきましょう。

蜘蛛の瞳』のポスター

蜘蛛の瞳_poster_japan
出典: 映画ナタリー

※サムネイル画像は『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)』より引用しています。

作品情報(ネタバレなし)

製作年 : 1998年
製作国 : 日本
上映時間 : 83分
ジャンル : サスペンス・ドラマ
Filmarksより引用。

監督は『蛇の道』と同じく黒沢清。最近には『クリーピー 偽りの隣人』や『Cloud クラウド』を手掛けた、独特な視点と映像表現が国内外から評価されている名監督です。

脚本は黒沢清に加え、『完全なる飼育 愛の40日』や『グロヅカ』の西山洋一が携わっています。

主演は前作に続き哀川翔。大半の人がカブトムシ好きの人という印象かもしれませんが、Vシネマ(劇場公開を目的とせず、ビデオソフトとして制作・販売された映画)が賑わっていた時代に第一線で活躍した人物でもあります。そんな彼が演じる新島は、前作では復讐を計画していましたが、この『蜘蛛の瞳』では復讐を終え、抜け殻のような生活を送っています。

他のキャストには、ダンカン大杉漣などの北野組俳優に加え、寺島進やデビューしたての阿部サダヲがいます。

ほめる君
豪華なキャスト陣も、作品の大きな魅力になっているね!

大事な点として、設定に食い違いがあることが挙げられます。これは『蛇の道』と『蜘蛛の瞳』で脚本家が違うこと、またこの2作品が同時進行で作られたために、撮影開始に脚本完成が間に合わなかったことで、設定に違いが生じたと考えられています。

しかし2作品で違った魅力があり、また上映時間も90分以下と短いため、ぜひ鑑賞してみてほしいです。

それでは、[簡単なあらすじ&予告]に移りましょう。

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簡単なあらすじ&予告

幼い愛娘を惨殺した男への復讐をついに果たした新島は、生きる目的を失い、仕事にも身が入らず、淡々とした日々を送っていた。そんなある日、再会した昔の同級生・岩松に殺しのビジネスに誘われる。いつしか新島は暴力の世界にはまっていく自分を感じ…。

[簡単なあらすじ]U-NEXTより引用しています。

海外版の予告映像

ざっくり結末まで

この記事では、映画『蜘蛛の瞳』のストーリーをネタバレありで解説しています。
この先、結末までの内容を紹介していますのでご注意ください。

またここではざっくりとしたストーリーを紹介しています。詳しい内容は本編をご確認ください。

娘を殺された新島(哀川翔)は、最後の関係者である男(寺島進)を暴行し、衰弱しきったところに銃を撃ち埋める。そんな彼の後ろには、白い布?を被った謎の物体が立っていた。
復讐を終えた新島は抜け殻のようになっていた。妻と二人暮らしで、娘の部屋はそのままになっている。そんな中、町でかつての同級生らしい岩松(ダンカン)と出会う。岩松に仕事を手伝わないかと提案された新島は、やることもなかったために受け入れる。しかしその仕事の正体は暗殺の下請けであった。岩松は上層部との連絡手段である衣田(大杉漣)から暗殺を依頼されていたが、その一方で他の大手ヤクザからの契約を勝ち取ろうとしていた。そのことに感づいた衣田は、岩松の会社に入ったばかりの新島に目をつけ、岩松の監視を依頼する。ここで岩松が大きな動きに出る。大手との契約の邪魔になる衣田や組織トップの日沼(菅田俊)らを殺すよう部下を仕向けた。新島は岩松に、自分の任務が悟られないように穏やかなムードを保っていたが、組織トップの日沼の命令により、岩松を殺害する。その現場を見ていた岩松の女も、追跡の末、殺害する。岩松の部下たちは、組織の上層部メンバーを殺したものの、彼ら自身も組織の手で殺されてしまった。
そして任務を終えた新島は自宅へ帰る。食事中、妻は亡き娘を思い嘔吐してしまうが、新島は平然と食事を続ける。
ある日、新島は街で殺して埋めたはずの男を見かける。不思議に思い、埋めた現場に向かうも、死体は埋まっていなかった。そして主人公が認識していた謎の物体は、白い布を被ったただの木だと判明する。物語は幕を閉じる。

ネタバレありの感想解説

簡単な感想

虚無の世界、怖えぇ…。

前回までのテイストとはまた違い、主人公の”虚無”に塗れた世界を、独特の映像表現で感じることができました。

異様すぎる雰囲気に圧倒されながらも、黒沢清節の効いた突飛なキャラ設定やヘンテコなギャグシーンが癖になります。特に中盤の長回し鬼ごっこや大杉連の車のシーン、またお坊さんをみんなで囲ってくシーンなどには、思わず笑ってしまいました。

しかし、実際のストーリーを見るととても残酷で、主人公の自我の喪失がしっかりと描かれています。

ほめる君
このギャップがたまりませんね…。

特に終盤は、急展開かつ意味不明なストーリーで考察しがいがあります。そんなところも含めて、この記事ではじっくり語っていこうと思います。

並んで歩く岩松(ダンカン)たち

並んで歩く岩松(ダンカン)たちの画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)
並んで歩く岩松(ダンカン)たちの画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)

黒沢清が描く”虚無”

この作品のテーマである“虚無”について考えていこうと思います。

主人公である新島は、寺島進演じる男を埋め、自分の娘の復讐を完遂させましたが、そこで生きる目的を失い、抜け殻のような生活に陥ってしまいます。そして、ダンカン演じる昔の同級生(本当にそうかは不明)に仕事を持ち掛けられますが、この仕事も殺人関連のものでした。

かなしみ君
抜け殻のような生活をしている新島が、また殺人系の仕事にありついてしまうのは残酷だよね。

そこで行われる仕事内容も”虚無”的な描かれ方がなされていました。特に、終盤のシーンでは、無表情で坊さんを囲んでいく様子が非常に不気味でした。

殺人対象のお坊さんを囲んでいく様子

お坊さんを囲む岩松(ダンカン)たちの画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)
お坊さんを囲む岩松(ダンカン)たちの画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)

殺人以外のシーンでは、だらだらと釣りやスケートローラーで遊んでいる様子が映されていました。

ほめる君
会話の中身のなさからも、”虚無”の表現を感じられるね。

そしてラストシーン付近、裏切りに奔走する岩松に対し新島は、彼らを淡々と殺した上で帰宅するのでした。

ここで家でご飯を食べるシーンに入るのですが、とても気味が悪いです。未だに亡くなった娘のことで苦しむ奥さんが吐いているにも関わらず、淡々と食事を進める新島の姿が写されます。

ここで作中で新島が語った言葉を思い出しましょう。

「ある男がパラシュートをつけて飛行機から飛び降りた。落ちていく途中で、男はパラシュートがないことに気がついた。男は気が狂うほど恐怖を味わった。そして失神した。ふと目を開けると、男はまだ空を落ち続けていた。もう、気が狂うことも失神することもなかった。」

新島は自分が出した例え話と同じ状態に陥ったと考えられます。一度”虚無”に達したことで、もう何にも関心を持たず、空っぽの人間になってしまったのだと。

しかし、作品内で「一度終わったものにこそ価値がある。なんの価値か?それはまだ誰にも分からん。でも、これだけは信じろ。”虚無”は不幸じゃない。新しい何かが始まるのだから。」というセリフを、菅田俊演じる組織のトップ・日沼が新島に語っています。

右から、並んで立つ新島(哀川翔)と日沼(菅田俊)

新島(哀川翔)と日沼(菅田俊)が並んで立っている画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)
新島(哀川翔)と日沼(菅田俊)が並んで立っている画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)

虚無に塗れてしまった世界を生きる新島は、この先”その価値”を見出せるのか。映画内では語られない部分にも、大事な要素が詰まっていると思います。

急展開のラスト

この映画のラストの展開は、なかなか曲者というか、難しい終わり方になっています。実際に観た人も、一回で理解はできないと思います。そこで自分なりに解釈してみたので、それを書いていこうと思います。

物語終盤の流れから追いましょう。

日沼から「岩松を殺れ」という命令を受けた新島は、岩松のもとへ向かう。岩松は、新島が自分を殺しに来たのだと確信し、プロレス技?らしきものをかける(ポスターのシーン)。岩松は「日沼は殺した。俺を殺す理由はない。」と言う。新島が部下の2人はどうしたと尋ねる。岩松が彼らが生きていないことを仄めかす。新島が銃を使って岩松を殺す。

おどろき君
肝心の殺すシーンを、血まみれの状態になるまでカットする表現には驚いたね!

そして、その場に居合わせた岩松の女も殺害し、家に戻る。家では妻が嘔吐しているも、新島は平然としている。
ある日、新島が殺して埋めたはずの男を町で見かける。不思議に思った新島が埋めた場所を確認するが、何もない状態になっている。背後に立つ謎の何かの布をめくると、ただの木が出てくる。

と、マジで意味不明ですが、この謎の物体について考えてみます。

娘の部屋にいる謎の物体

娘の部屋にいる白い布を被ったナニカの画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)
娘の部屋にいる白い布を被ったナニカの画像。
出典 : 『‘Eyes of the Spider’ trailer (蜘蛛の瞳 – Kiyoshi Kurosawa, Japan 1998)

これについてですが、明確な答えを出すことは不可能だと思います。

期待した方、ごめんなさい…。

明確な答えは出せませんが、自分なりにこうかな?と考えたものをここに書き留めておこうと思います。

実は物語内で、この謎の物体は何回か出てきます。

1回目は寺島進演じる復讐相手の男を埋めたとき、2回目は娘の部屋に入ったとき、そして3回目はラストシーンのときです。

1.2回目は白い布で正体が分からないものの、3回目は中身が木だと判明しました。このことから、新島が自分自身が木のような考える能力のない”虚無”のみの存在に至ったことを、最後のシーンで自覚したことを表現したのかな?と自分では結論付けました。

しかし、これが正しいかは分かりません。『2001年 宇宙の旅』でいう”モノリス”的な、何かの概念として存在しているものなので誰も正解を出すことはできないのです

もう何回も見て、理解を深めたいなと思える作品でした!

また、『蛇の道』『蜘蛛の瞳』を通して、非常に完成された作品だったと思います!!!

お気に入り度

4.0/4.0

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