『蛇の道』ネタバレありの感想解説 ~復讐に、悪意に染まる~

こんにちは! ゆったです。

今回は、黒沢清が1998年に手掛けた異色の姉妹作品『蛇の道』『蜘蛛の瞳』より、『蛇の道』を紹介しようと思います。

蜘蛛の瞳』についての記事も準備中ですので、ご期待ください…。

それぞれの映画に新島(哀川翔)という人物が出てくる点は同じなのですが、脚本段階である問題が生じたことにより、設定に食い違いが起きた珍しいシリーズです。

“復讐”という重く苦しいテーマでかつ、黒沢清の独特なセンスに戸惑う人もいるかと思いますが、ハマる人にはどっぷりハマる作品なので、ぜひ一度トライしてみて欲しいです!

それでは、この異色で謎めいた傑作の『蛇の道』を早速紹介していきましょう。

蛇の道』の日本版ポスター

蛇の道_poster_japan
出典: 映画ナタリー

※サムネイル画像『【予告篇】『蛇の道』(1998)』より引用しています。

作品情報(ネタバレなし)

製作年 : 1998年
製作国 : 日本
上映時間 : 85分
ジャンル : サスペンス・ドラマ
Filmarksより引用。

監督は『CURE キュア』や『回路』などの良質なサスペンス作品を撮り続ける黒沢清。独特なテンポの会話やカット割りなど、魅力的な映画製作で国内外から人気を得ている名監督です。

脚本はJホラーでお馴染みの『リング』シリーズや『女優霊』などを手掛けた高橋洋今回紹介する作品でジャンプスケア(大音量で観客を怖がらせる演出)はないので安心してご鑑賞ください。数々の名作を手掛けているだけあり、この作品でも素晴らしい手腕を見せてくれました。

こわがり君
ジャンプスケアはないけど銃の音は大きいから、音量には注意して視聴してね…。

主演に哀川翔香川照之の2人がいます。哀川翔は、”Vシネマ(劇場公開を目的とせず、ビデオソフトとして制作・販売された映画)の帝王”と呼ばれるほど多数の作品に出演しており、今作でもベテランの風格を見せています。香川照之もまだキャリアが浅い頃でしたが、その後の成功を予感させるような演技を見せてくれました。

ちなみに、黒沢清自らセルフリメイクした『蛇の道』(2024)も存在しています。フランスで制作され、キャストも柴咲コウ西島秀俊らの実力派が揃っています。時間のある方は、ぜひ1998年版との違いを意識しながら観てみてください。 

それでは、[簡単なあらすじ&予告]に移りましょう。

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簡単なあらすじ&予告

娘を殺された宮下は、謎の男・新島の協力を得て復讐を実現しようとしていた。ある組織の幹部、大槻、檜山、有賀を次々に拉致した2人は、拷問まがいのやり方で真相を問いただしていく。一方、3人は保身のために罪をなすり付けあい、醜い争いを繰り広げ…。

[簡単なあらすじ]U-NEXTより引用しています。

日本版の予告映像

ざっくり結末まで

この記事では、映画『蛇の道』のストーリーをネタバレありで解説しています。
この先、結末までの内容を紹介していますのでご注意ください。

またここではざっくりとしたストーリーを紹介しています。詳しい内容は本編をご確認ください。

幼い愛娘を暴行の末、殺害された宮下(香川照之)は復讐に燃えていた。謎の男・新島(哀川翔)の助けを得て、犯人への復讐を計画していた。そんな彼らは初めに、ヤクザ組織の幹部である大槻(柳憂怜)を拉致する。人影もなく、不気味な雰囲気の漂う廃倉庫に監禁し、拷問を始める。やがて大槻の口から檜山(下元史郎)という人物の名が出てくる。宮下は檜山という人物を何故か知っており、少し躊躇いを持っていたが、新島の説得で拉致することを決意する。檜山を拉致することに成功した2人は、またしても拷問を始める。しかしそんな中、新島は、宮下に黙って大槻と檜山にある提案をする。それは、口裏を合わせ、適当な1人を犯人に仕立て上げようというものだった。大槻と檜山には保身ができる好条件のためこの提案を飲み、有賀(翁華栄)という男を新島に紹介した。一方で、檜山の女であるコメット(砂田薫)は、部下たちと共に宮下と新島の殺害に乗り出していた。彼女らが迫りくる中で、罪を擦り付け合う大槻と檜山を殺害し、2人は有賀拉致に向かう。拉致を終え車に乗り込んだ宮下と新島と有賀。新島はどういうわけか車をある廃工場へと走らせた。不思議に思った宮下だったが、新島の後に付いていくしかなかった。宮下はそこである事実を知る。それは新島の娘も、大槻や檜山らが携わったロリコンビデオの犠牲者であり、その廃工場は彼女が被害に遭った現場だったということだ。新島も復讐が目的だったことに気付いた宮下は戸惑いながらも、自分たちを追いかけてきたコメットとその部下たちと接敵する。宮下は、銃を使い一味を殺害していくが、最後には新島に殴られ気絶してしまう。そして、目が覚めると宮下は監禁現場であった廃倉庫で拘束されていた。実は、宮下はこのロリコンビデオの販売に関わっており、新島はそんな宮下を利用して、復讐を成し遂げようとしたのだ。新島は宮下の前にテレビを運び、宮下の娘が殺される様子を映したビデオを再生する。宮下は恐怖に震えながらも、そのビデオを凝視するのだった。

ネタバレありの感想解説

簡単な感想

淡々と進む復讐に気が滅入る…。

黒沢清監督作品ということもあり、『CURE キュア』のような異常なほどの湿り気を感じられます。

ストーリーも同様に暗く重いのですが、深く考えると意外に練られているストーリーだと分かります。

そんな中でも、特に俳優たちの演技が素晴らしかったです。特に哀川翔は独特な演技で、謎の男・新島のミステリアスな人相を上手く表現していました。

ほめる君
謎めいた新島と、哀川翔の甲高い声がベストマッチしてるね!

哀川翔だけでなく、香川照之の演技も素晴らしいものでした。拉致した犯人の前で、自分の愛娘の映像を流しながら、遺体の状況を語っていく様は、まさに狂気的でした。

それほど復讐に駆られているのに、新島という存在の後に付いていくしかない様子は、滑稽かつ憎たらしいもので良かったです。

また全編通してロケーションが素晴らしかったです。拉致した犯人たちを監禁した廃倉庫や、最後の銃撃戦が行われた廃工場など。他の黒沢清映画にも言えることですが、こういったガチャガチャしてる場所選びのセンスは本当に一級品だと思います。

宮下(香川照之)の娘と新島(哀川翔)の娘が被害を受けた現場

新島(哀川翔)、宮下(香川照之)のそれぞれの娘が被害に遭った廃工場の画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)
新島(哀川翔)、宮下(香川照之)のそれぞれの娘が被害に遭った廃工場の画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)
こわがり君
画像から禍々しい雰囲気が伝わってくるね…。

そして、平然と銃が出てくる世界にも驚かされます。大体の日本映画で銃が出てくると、どうもフィクションたらしくなるのですが、この作品ではそのようなことは一切ありませんでした。

そんな独自の世界観を形成している点も、黒沢清が評価されている理由の1つだと思います。

新島という存在

この映画を語るにあたって、やはり新島という存在は外せません。

この作品内では、唯一すべての計画を成功させ、結果的に1人勝ち残った人物でもあります。

物語全体通して、謎の数式を解く講座?の教師をしていたりと、”天才”を抽象化したような描き方が見られるので、黒沢清はもともと新島という人物を”死神”的存在として描きたかったのだと考えられます。

実際に、バレるはずの拉致を毎回成功させていることから、この人物が非現実的な描き方をされていると分かると思います。

拉致に向かう新島

拉致に向かう新島(哀川翔)のシーンの画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)
拉致に向かう新島(哀川翔)のシーンの画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)

そんな新島も実は娘の復讐を考えていたことが、物語終盤で判明します。

復讐を確実に成功させるために、同様に復讐に燃える裏社会の一員である宮下を見つけ、計画にうまく利用しました。

ここまで話したことから分かるように、このお話はだいぶ都合がいいです。

新島と宮下の出会いや、新島がなぜ宮下の素性に気付いたのかの描写が、この作品には一切ありません。

しかしそれでいいのです。黒沢清はそんなことよりも、復讐によって生まれる悪意についてを、フォーカスしてこの作品を作ったのだと私は思います。

悪意の軽さ、善意の重さ

次はこのお話のメイン軸である宮下の復讐について考えていこうと思います。

宮下は、実際にはロリコンビデオを売っていた販売員でしたが、愛娘を凌辱の末に殺されたことに恨み、自分と関係のあったヤクザにまでも手を出してしまいます。

物語全編通じて宮下は結構小物のように感じます。というのも自分の復讐なのに”死神”的存在である新島に主導権を取られ、なおかつ新島の成功に浮かれて、どんどん悪ぶっていきます。

ここでこの物語のサブタイトル“悪意の軽さ、善意の重さ”より、“悪意の軽さ”というテーマが見えてきます。

これは現代でもありふれていることだと私は思います。すごく主観的かもしれませんが、中学生や高校生の多感な時期に、周りの強い人に感化されて自分も強いと感じてしまう、そうして悪ぶった行為に及んでしまうケースは多いと思います。悪意はどんどん増幅し、やがて取り返しのつかない事態に陥った人はたくさんいると思います。

ここで“善意の重さ”というテーマにも注目していきましょう。

物語序盤から終盤まで、宮下は”娘を思う気持ち”という”善意”を常に持っていました。

娘が映るテレビを抱きしめる宮下

自分の娘が映るテレビを抱く宮下(香川照之)の画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)
自分の娘が映るテレビを抱く宮下(香川照之)の画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)

しかしラストシーン付近で、新島による復讐として、自分の娘が殺される一部始終が映ったビデオを見せられることになります。

このときに、今まで持っていた”娘を思う気持ち”という”善意”とこの復讐で膨れていった”悪意”とのバランスが逆転し、自分の娘の最悪な瞬間を捉えたビデオを凝視するという結末に陥ったと考えられます。

蛇の道

この映画のタイトルである『蛇の道』の意味について考えようと思います。

このタイトルはことわざである“蛇(じゃ)の道は蛇(へび)”に由来していると考えられます。

意味を調べてみましょう。

同類のすることは、その方面の者にはすぐわかるというたとえ。
引用元 : コトバンク

かいせつ君
映画の方は、『蛇(へび)の道』という読み方で合ってるよ!!!

結局、自分自身がヤクザとの関係を持っていた宮下のことを表していることわざだと思います。

それだけでなく、宮下と新島を繋いだ”娘を奪われた苦しみ”もこのことわざに当てはまるものと思われます。

新島は宮下の苦しみを理解しているからこそ、意のままに操ることができたのかもしれません。

またこの題名を象徴するかのように、映画冒頭から質素な住宅街をくねくねと曲がっていく描写もあります。

ことわざ的な意味だけでなく、彼らの復讐にかかる長い長い道のりを『蛇の道』という比喩で表現しているのかもしれませんね。

車に乗る新島と宮下と有賀(翁華栄)

新島(哀川翔)、宮下(香川照之)、有賀(翁華栄)が3人一緒の車に乗っているシーンの画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)
新島(哀川翔)、宮下(香川照之)、有賀(翁華栄)が3人一緒の車に乗っているシーンの画像。
出典 : 『【予告篇】『蛇の道』(1998)

印象的なカットも多く、非常に見ごたえのある作品でした!!!

同シリーズ作品の『蜘蛛の瞳』の記事も近日中にアップする予定です。ご期待ください…。

お気に入り度

4.0/4.0

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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