『灼熱の魂』ネタバレありの感想解説 ~真実を知る覚悟~

こんにちは! ゆったです。

今回は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による傑作ヒューマン・ミステリー『灼熱の魂』について書いていこうと思います。

変わった母の遺書に従い、双子の姉弟が父と兄を探しに行くというシンプルなストーリーなのですが、真相を知るにつれて、どんどん心苦しい展開になっていきます。そして最後迎える展開には、言葉の出ないほどの衝撃を感じられます。

なかなかハードルの高い作品ですが、心に余裕のある時にぜひ鑑賞してみて欲しいです。

それでは、この衝撃度MAXの傑作を紹介していきましょう。

灼熱の魂』の日本版ポスター

Incendies_poster_japan
出典: 映画ナタリー

※サムネイル画像は『灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】』より引用しています。

作品情報(ネタバレなし)

製作年 : 2010年
製作国 : カナダ・フランス
上映時間 : 131分
ジャンル : ドラマ・ミステリー
Filmarksより引用。

過激な描写を含む作品です。苦手な方は視聴をお控えください。

監督・脚本は、『メッセージ』や『プリズナーズ』など様々な傑作を手掛け、最近では『デューン 砂の惑星』シリーズを監督したことで話題になった、ドゥニ・ヴィルヌーヴです。芸術性のある作風深みのあるストーリーなどが特徴的で、この作品は彼の出世作ですが第83回米アカデミー外国語映画賞にノミネートされました

原作はワジディ・ムアワッドによる戯曲で、ドゥニ・ヴィルヌーヴがこれに感銘を受けたことで映画化に踏み切ったそうです。

キャストは、母親ナワル役に『モロッコ 彼女たちの朝』のルブナ・アザバル。また姉ジャンヌにメリッサ・デゾルモー=プーランが、弟シモンにマキシム・ゴーテッドがいます。

ここから分かるように、この作品には大物な俳優が出演していません。しかし、有名な顔ぶれがいないからこそ、この物語にリアルさが出ていたと思います。

左から姉のジャンヌ(メリッサ・デゾルモ=プーラン)と弟のシモン(マキシム・ゴーデット)

左からジャンヌ(メリッサ・デゾルモ=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】
左からジャンヌ(メリッサ・デゾルモ=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】
ほめる君
みんなびっくりするぐらい演技が上手かったね!

予習が必要かどうかという議論がよく起こっていますが、個人的には必要ないと思います。原作と映画それぞれで特定の国名は出ていませんし、舞台である内戦についても映画内で説明されているので、しっかり観れば内容に躓くことはないと思われます。

この作品の注目ポイントとして、やはり物語の核となる真相部分があります。しかし、これは相当に辛く苦しいものになっています。観るときは自分のメンタルに相談してから観てください。

それでは、[簡単なあらすじ&予告]に移りましょう。

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簡単なあらすじ&予告

双子の姉弟、ジャンヌとシモンの母・ナワルが、ある日プールサイドで原因不明の放心状態に陥り息絶えた。ナワルの遺言を知らされたジャンヌとシモンは、2人が存在すら知らされていなかった父と兄にナワルの手紙を渡すため、母の祖国を訪れることに。

[簡単なあらすじ]U-NEXTより引用しています。

日本版の予告映像(デジタル・リマスター版)

ざっくり結末まで

この記事では、映画『灼熱の魂』のストーリーをネタバレありで解説しています。
この先、結末までの内容を紹介していますのでご注意ください。

またここではざっくりとしたストーリーを紹介しています。詳しい内容は本編をご確認ください。

ある日、双子の姉弟であるジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーテッド)の母であるナワル(ルブナ・アザバル)が、プールで原因不明の放心状態に陥った。急激な体調不良に伴い亡くなってしまったナワル。その後、双子は遺言書を受け取ることになる。そこには、同封した2通の手紙を父親と兄に届けろという指示が載っていた。彼らの存在を全く知らなかったジャンヌは、戸惑いながらも母の意思に従い、故郷である中東へと向かう。しかし、シモンは変わり者だった母親の遺言に反対し、カナダに留まったままだった。
ナワルはキリスト教を信仰する村で暮らしていた。ムスリムの青年と恋に落ちた彼女は、彼と愛し合い、妊娠をする。しかし、村の住人たちの納得を得られず、挙句の果てに彼らに青年を殺されてしまう。愛する者を失い絶望するものの、祖母の助けによって、ナワルは息子を無事に産み落とすことができた。祖母との約束により息子・ニハドはすぐに孤児院に預けられ、一方でナワルは村から離れ、叔父の元で大学に通うことになる。その頃、国は非常に不安定な状態に陥っていた。キリスト教徒とイスラム教徒の間で内戦が巻き起こっていたからだ。ニハドが預けられた孤児院のある南部は戦闘が激しいということを知った彼女は、息子の安全を確認するため旅に出る。だが孤児院はすでに崩壊しており、息子の消息は絶たれてしまった。
そんな中、ある災難が彼女を襲う。それは、乗っていたバスにキリスト教の過激派が乗り込み、イスラム教徒を女子供共々殺したことだ。ナワルは自身の持っていた十字架を見せたことで助かったが、残虐的なキリスト派に反感を持つことになる。そしてイスラム教徒側に協力し、キリスト教徒の指導者を射殺してしまう。
一方、母の過去を探るジャンヌは、母に出身地を訪れる。しかし、一族の恥であるナワルの娘だと知った村の住人たちは、ジャンヌを追い返してしまう。
政治犯として捕まったナワルは監獄へ送られた。そこで15年も拘束されるのだが、地獄のような日々が流れていた。彼女は希望を失わぬよう常に歌を歌っていた。”歌う女”と呼ばれた彼女に、監獄の者たちはよい印象は持たなかった。彼女を絶望させるため、希望を失わせるため、凄腕の拷問人アブ・タレク(アブデル・ガフール・エラージズ)が監獄に派遣された。彼に何度もレイプされ、獄中で出産した彼女は、やっと釈放される。
現代では、ジャンヌがこの監獄のことを知ることになる。知りもしなかった母の過去に苦悩する中、シモンにもこの事実を伝える。そして双子は合流し、母の最初の子であるニハドを探し始し始める。過去に孤児院に関わった男と接触し、ニハドがどのような人生を送ったのかを聞く。そこで彼らは最悪の事実を聞くことになる。それは、ニハドは孤児院に送られた後に拉致され、イスラムの戦闘員として人生を送り、その後キリスト教の洗脳によって拷問人アブ・タレクとして生きたということだ。1+1=1。彼らが捜していた兄と父親は同じ存在であったのだ。実の息子にレイプされ、ナワルが産んだ子供が自分たちであったことを知ったジャンヌとシモンは激しく葛藤する。
アブ・タレクは拷問人としての役割を果たした後、カナダへと渡った。ナワルはプールでアブ・タレクを見かけ、またそれが自分の息子ニハドであることを、踵にある印によって気づき、ショックで放心状態になったのだ。そして体調不良で亡くなったナワル。彼女の願いに従い、ジャンヌたちはアブ・タレクに接触し、2通の手紙を渡す。1枚目には、レイプによって産まれた双子がジャンヌとシモンであること。そして2枚目には、息子であるニハドを愛する気持ちを綴ったものだった。そんな2つの真実の前に沈黙するナワルの息子たちであった。

ネタバレありの感想解説

簡単な感想

辿り着いた真相に言葉が出ない…。

いやぁ、なかなかに重いお話でしたね。中盤以降、ずっと悪い予感が当たり続けていく様が、とても辛かったです。

大体オチが強い映画は、序盤の展開が退屈になりがちなのですが、この作品では最初から最後まで気の抜けない展開が持続していたと思います

そう思う理由の1つに、やはり映像へのこだわりの部分があります。

この映画内では、内戦が起こる土地を広大で乾いた映像で映していました。画面内に希望は存在せず、観てて重く苦しい映像でした。

特に中盤のバスのシーンは非常に印象に残ります。燃え盛るバスが彼女の心の怒りを表しているように感じました。しかし、その前に動けず絶望に立ちふさがっている主人公を映す構図は、まさに完璧そのものでした。

燃え盛るバスの前で倒れこむナワル(ルブナ・アザバル)

燃えるバスの前で絶望するナワル(ルブナ・アザバル)の画像。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】
燃えるバスの前で絶望するナワル(ルブナ・アザバル)の画像。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】

初期作にも関わらず、ドゥニ・ヴィルヌーヴの才能が爆発していましたね。

母の壮絶な人生

物語を通じて、主人公である双子が母親の人生を辿っていきながら、私たち自身がナワルの過去の回想を観るという構成になっています。

各章パート分けされているため見易さはありますが、やっぱり長くは感じてしまうと思います。

ぜつぼう君
内容が内容だからしょうがないよね…。

しかし、このじっくり追っていく構成によって、最後の衝撃度が増して感じられるので、最後まで諦めずに鑑賞して欲しいです。

じっくりと進むため理解しやすい内容ではありますが、日本人である私たちにとっては少し複雑な内容かなと感じました。そこで、この作品の舞台とされている“レバノン内戦”について調べてみました。

コトバンクではこのような解説がされていました。

レバノン国内のキリスト教徒と,イスラム教徒・パレスチナ人の連合勢力との間で長期間続いてきた内戦。
引用元 : コトバンク

ほとんど映画の内容と同じですね。

ナワルは内戦が激化する中で、自分が村で産んだ息子(ジャンヌたちにとっての兄)の安全を確認すべく、旅を始めます。バスで息子の元へ向かう中、キリスト教の過激派によってバスを襲撃され、自分以外の乗客全員が殺されてしまいます(この時、主人公は十字架を持っていたため助かった)。子供でさえも残虐に殺される様子を見たナワルは絶望と怒りに飲まれ、キリスト教の指導者である男の息子の家庭教師として忍びこみ、この指導者を射殺します。

キリスト教の指導者に銃を向けるナワル

銃を向けるナワル(ルブナ・アザバル)の画像。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】
銃を向けるナワル(ルブナ・アザバル)の画像。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】
かなしみ君
このシーンの、銃の扱いに慣れていない様子がとてもリアルだったね…。

そして、ナワルは監獄に入れられることになります。そして”歌う女”として15年間閉じ込められ、レイプをされ、後のジャンヌとナワルを産み落とします。

観ていて思うのは、ナワルは内戦の負の影響を全て被った人物だということです。

息子の安全を確認しにいくことも、社会民族党の暴動がなければ起こらないアクションでした。さらに指導者の殺害についても、バス襲撃さえなければ動機はないように思えました。

辛く重い母親の過去を知る双子の表情が、非常に印象に残りました。

真実を知って…

やはり、この映画で最も重要なパートは、真相の部分にあると思います。

変わっていた母親の過去に何があったのか。最後まで知ることが理解に繋がるのか、それとも絶望につながるのか。

そもそもなぜナワルは、自分の人生や最悪の真実を双子に伝えようとしたのでしょうか。

個人的には、母として至らなかった後悔を、息子たちに知って欲しかったのかなと思いました。しかし、作品中で「時として、知らないほうがいいこともある」と言われるぐらいの真実ですから、ナワルの判断も大変難しいものだったと思います。

こわがり君
下手すれば、息子たちが自殺しかねないからね…。

それでも伝えたのは、ナワルとその息子たちそれぞれが、愛と強さを持っていたからだと思います。辛く希望のない日々を生き抜いたナワルの強さを、姉弟が2人で受け継いでいると母親の目には映ったのではないでしょうか。

またこの真相を知ったときに、構成の秀逸さにも気づきます。

最後の真相部分は、ジャンヌとシモンの反応を見て私たちも気付くというものになっています。しかし1回観てすぐにこれを理解できる人は少ないと思います。そのためにハイリスクハイリターンの作品だと言えると思いました。

この最後の構成以外の部分でも、非常に興味深いものがたくさんありました。

ほめる君
最初のシーンに、ニハドの姿を持ってくる演出は秀逸だったね。

監獄で邂逅する監獄人アブ・タレク(アブデル・ガフール・エラージズ)とナワル

監獄にいるナワル(ルブナ・アザバル)とアブ・タレク(アブデル・ガフール・エラージズ)の画像。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】
監獄にいるナワル(ルブナ・アザバル)とアブ・タレク(アブデル・ガフール・エラージズ)の画像。
出典 : 灼熱の魂 デジタル・リマスター版【予告編ロング】

真実を知ることが是か非か。誰にも決められないし、誰も触れることのできない領域だと思います。それが明らかになった時、耐えれるだけの強さと愛があるのか。非常に興味深く拝見できた作品でした!

お気に入り度

4.0/4.0

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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